腸内環境とストレス(1)
2020年5月28日
私たちの大腸内には腸内細菌が住み着いており、その細菌たちの生態系を腸内フローラといいます。
腸内細菌は私たちの体の働きにさまざまな影響を与え、健康状態や病気の発症などとの関連が注目されています。体にとって有益であると考えられる細菌は善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)、有害な影響を与える細菌は悪玉菌(ブドウ球菌やウェルシュ菌など)と呼ばれています。
腸内細菌は、バランスを保ちながら共存しています。腸内フローラのバランスが崩れるとおなかが張ったり、便秘や下痢になったり、肌が荒れたりと体調を崩しやすくなりますが、ストレスとの関係もわかっています。
そこで、睡眠やストレス、食事などから「生活習慣病としてのうつ病」を専門とする心療内科医の田中奏多(たなか・かなた)先生に「腸内環境とストレスの関係」をテーマにお話を伺いました。全4回。
--よく、腸内フローラのバランスを崩さないためには、「リラックスタイムをとる」「ストレスをためない」とストレスについても言及されます。腸内環境とストレスの関係を教えてください。
田中奏多先生(以下、田中):「腸脳相関」と呼ばれる概念があります。 腸は「第二の脳」とも呼ばれる独自の神経ネットワークをもち、脳からの指令がなくても独立して活動することが可能であり、脳がなく腸だけがある生物も存在します。
--腸だけある生物! 不思議ですね。
田中:脳と腸は自律神経系、内分泌系、免疫系の三つの経路を介して、 互いに影響を及ぼしあっています。これが「腸脳相関」で、脳から腸への情報伝達(脳→腸シグナル)と腸から脳への情報伝達(腸→脳シグナル)が、一方的ではなく双方向的に影響を及ぼしています。
--だから、「相関」と言うのですね。
田中:そうですね。最近は、テレビや雑誌などのメディアでも頻繁に登場するので知っている人も多いと思いますが、自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。
--よく聞く言葉です。
田中:「交感神経」は戦ったり、逃げたりストレスがかかった状態に働く神経で、副交感神経は、休んでいるときに働く神経です。
腸との関連で言えば、副交感神経が優位になったときに腸は活発に動き、お腹が動き消化がすすみます。ストレスを感じたときは交感神経優位になりやすく、食欲が低下したり、ストレス食いのときには消化がすすまず、胃もたれを起こしたりもします。
内分泌系は、不安やうつに関わる行動に関係しています。免疫系は、細菌やウイルスなどの異物から体を守る仕組みのことです。善玉菌は、免疫細胞の活性化にも関わっているので、腸内フローラを整えることが免疫機能の活性化に必要になります。
--腸と脳の関係は一方通行ではなく、互いに影響し合っているということですね。
田中:そうですね。ストレスを感じると下痢気味になったり、試験前に緊張するとトイレに行きたくなったりする人もいます。脳と腸は迷走神経を介してつながっており、ストレスを感知すると腸内環境が変動することで、腸内フローラが変わり、二次的に自分の体に作用する可能性が示唆されています。
また、腸内フローラは私たちのストレス耐性の強さにも関連していると考えられています。
--どういうことですか?
田中:リラックスを感じているときは、腸内フローラのバランスが整えられ、腸の働きがよくなります。適切に腸が動き、腸内フローラが安定すると、脳が不安を感じることも抑えられます。
逆に、ストレスを感じると、交感神経が優位になって消化機能が低下します。腸内フローラのバランスが崩れ、悪玉菌が優勢になり、便秘や下痢を引き起こしやすくなります。腸の働きが鈍くなると、その情報を脳がキャッチするのでさらにストレスになります。
--ストレスは腸内環境にとって悪いのですね。
田中:そうですね。ストレスをため込まないことが一番ですが、ストレスがない生活はできませんので、ストレスがあるときこそ、食事や生活習慣を見直して腸内環境を整えることも大事です。善玉菌のビフィズス菌を含む食品やサプリメントを積極的にとるなど「腸活」を続けてみましょう。